つじつまがあわないこと、道理にあわないことをさして、
矛盾、という。
この矛盾という言葉は、中国の故事からきている。
話の概要は、以下のようになる。
昔、楚の国の人で、盾と矛を売る人がいた。
そのひとが、盾をさして言うのには、
「この盾はとても頑丈だから、どんな矛でも、これを突き通すことはできない」
と言う。
いっぽうで、矛をさして言うのには、
「この矛はとても鋭いから、この矛で突き通せない盾なんかない」
と言う。
それを聞いていた見物人のひとりが、
「では、その矛でその盾を突いたら、いったい、どうなるのだ?」
と聞いたところ、その商人は、答えることができなくなってしまった、という。
この話は、中国の古典である「韓非子」の「難」という編にでてくる話だ。
であるから、この話は、韓非のまったくの創作である、
というように考えることもできる。
ただ、まったくなにもないところから、このような話をいちから作り上げた、
というよりかは、自分は、
もともと民間の寓話、口伝として伝承されていた内容をもとにしたのではないか、
という気がする。
この、矛盾の故事になった話は、とてもシンプルで短い。
韓非子という古典作品のなかには、ほかにもたくさんの内容がふくまれているのに、
この「矛盾」の故事だけは、現代にいたるまで、つとに有名だ。
自分は、なんらかの文学作品や芸術作品、神話や伝説、伝承、故事成語
といったものが、
長い時の試練にも耐えて現代まで色あせることなく伝わっているとすれば、
それは、そのなかに、なんらかの、一見したところでは分からないような、
この世界の真理のようなものがひそんでいるからではないか、
と勝手に考えている。
矛盾の故事は、おそらく、韓非がその著作の中に採録する以前から、
中国古代の民衆の間では、知られた話だったのではないか。
では、この盾と矛、もし、このような盾と矛の戦いが、実際にあったとしたら、
果たして、勝つのはどちらなのだろう。
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