この世界の不思議

この世界のいろんなことについて、思ったことを書いていきます。

出自を知る権利と、精子提供者の減少。

みなさん天機です٩(ˊᗜˋ*)و

(この記事の字数 約4200字)

 

 

 

今回は、出自を知る権利と、精子提供者の減少

というテーマで書いてみようと思います。

 

 

 

天機は結婚していないのでわからないことも多々ありますが、

世の中の結婚しているご夫婦のなかには、

なかなか子供にめぐまれない、

というかたも、おられるようです。

 

 

 

そういったご夫婦は、いわゆる不妊治療をされることがあります。

 

 

 

不妊にはいろんな原因があると言われていますが、

女性側だけに原因があるわけではなくて、

男性側に原因があることも、少なくありません

不妊の原因は男女で半分ずつある、という意味ではありません)。

 

 

 

男性側が不妊の原因になっているものとしては、

精子の問題があります。

 

 

精子の数がとても少ないとか、

数には問題がなくてもその運動量が足りないとかいったことで、

不妊につながるのですね。

 

 

 

そういったときに、その対策として選択される方法の1つが、

他の男性から精子をもらってくる

という方法です。

 

 

 

これまで日本では、慶応大学病院など、複数の病院で、

その方法をもちいた不妊治療がおこなわれてきました。

 

 

 

ボランティアで、あるいは、

少額の報酬をうけとったうえで、

提供希望者の男性が精子を提供し、その精子を、

不妊に悩んでいるカップルに提供する。

 

 

そういう仲立ちを病院がおこなって、それで

不妊対策治療を実現してきた経緯があったのですね。

 

 

 

ところが。

 

 

 

いま、その精子提供希望者の男性が、

激減しているというのです。

 

 

 

実際、これまでその方法での不妊治療をおこなってきた

慶応大学病院のほか、

複数の病院で、

その方法をもちいた不妊治療の新規受付を

停止せざるをえないような状況に追い込まれています。

 

 

 

なぜ、そのような状況になったのか、というと、

その原因は、

「出自を知る権利」

というものが、

広く主張されるようになってきたことにあるのですね。

 

 

 

精子提供によって生まれた子供が、成長するにしたがって、

自分のルーツやアイデンティティを追究し、

精子提供した男性に接触することができるように、

という考えから、

精子提供によって生まれた子供がみずからの

「出自を知る権利」

を確保しよう、という主張が、近年、

欧米を中心にひろくおこなわれるようになってきたのです。

 

 

実際、ドイツなどでは、

この出自を知る権利というのを認めた

裁判の判決なんかもでているようです。

 

 

 

たしかに出自を知る権利をみとめることによって、

子供が自分自身のルーツを知ることができるようになり、

いいことじゃないか、

と思われるかたも、多いかもしれません。

 

 

 

ところが、この出自を知る権利というのは、

単に子供が、

精子を提供した提供者の男性に会うことができる、

という権利にとどまるものではなく、

精子提供者の男性から子供へと養育費を支払ったり、

子供が男性の財産分与を請求できたり、といった、

そんな内容まで含むようなのですね。

 

 

 

これは、精子提供者の男性にとっては、

重大なリスクになります。

 

 

 

ほとんどの精子提供者の男性というのは、

そんなに重大な気持ちで精子を提供したとは

考えにくいのです。

 

 

 

妊娠出産というのは、

非常に重大な負担を女性に要求するものですが、

男性の射精というのはそれと違って、

基本的にティッシュでつつんで捨てるようなものを

排出する、日常行為にすぎません。

 

 

 

おそらくは、精子提供というものも、

提供者の男性の意識のうえでは、

そんな日常行為の延長上にあるものであって、

そこから過度な負担が自分にふりかかってくるとは、

予期していないのですね。

 

 

 

なので、

精子提供したことで自分の財産が危険にさらされる

可能性がでてくる、なんていうのは、

提供者の男性にとっては予想外なことであり、

実際、

この出自を知る権利というのが主張されるようになって以降、

欧米においても、

提供希望者の男性が激減しています。

 

 

 

さて。

 

 

 

この問題をどう考えたらいいのでしょうか。

 

 

 

天機は、この問題についても、

契約というものはいったいどういうときに成立するのだろうか

という根本にさかのぼって

考えてみるのがいいと思います。

 

 

 

パンの売買で考えてみましょう。

 

 

パンを売りたい、と考えるひとは、

パンの売買契約を結ぶことによって、

パンを渡すかわりに代金を得るという利益があるので、

契約に参加します。

 

 

いっぽう、パンを買いたい、と考えるひとは、

パンの売買契約を結ぶことによって、

お金を支払うかわりにパンが手に入るという利益があるので、

契約に参加します。

 

 

 

つまり、売る側も、買う側も、

なんらかの利益があるからこそ、契約に参加するわけで、

これがもし、

タダでパンを渡さないといけない、とか、

お金を払うけれどパンはもらえない、とかいった、

一方だけを一方的に利する契約だったら、

損をする側の人間はまず契約に参加してこないだろうことは

容易に想像がつきます。

 

 

 

では、精子提供の話にもどって考えてみると、

どういう情景が見えてくるでしょうか。

 

 

 

契約、と言っていいのかどうかはわかりませんが、

精子をもらう側と、精子を提供する側が合意を結ぶ

場面を考えてみましょう。

 

 

 

精子をもらう側には、じつは、

当事者と考えられる人間が、2種類、存在します。

 

 

精子の提供を受けることで、

妊娠出産が可能になる「父母」にあたる人間と、

もうひとつ、

その精子によって生まれてくることになる「子」にあたる人間、

この2種類です。

 

 

この2種類の人間は、両方とも、

精子をもらう側として、合意にかかわってきます。

 

 

 

他方、反対当事者として合意に参画してくるのは、

精子提供者の男性、それだけです。

 

 

通常は、この男性1人だけが、

反対当事者として合意を結んでくることになります。

 

 

 

さてここで、

精子の提供の合意がなされ、精子が提供され、

男性は無報酬、あるいは少額の報酬をもらい、

無事に妊娠出産がおこなわれ、

なおかつ、

その子が成長したときに「出自を知る権利」が認められて、

その子が精子提供した男性にアクセスし、

養育費だの財産分与だのを手に入れたとしましょう。

 

 

 

この場合、合意にかかわったそれぞれの関係者の、

利害は、どうなっているでしょうか?

 

 

 

まず、精子を提供してもらった側ですが、

こちらに存在する「父母」は、

精子提供を受けて妊娠出産が実現したのですから、

みずからの希望がかなって、

利益を得ていることになります。

 

 

また、そこから生まれた「子」は、

自分の、出自を知りたい、という希望が実現し、

精子提供者からお金を得ているわけですから、

こちらも、みずからの希望がかない、

利益を得ていることになります。

 

 

 

つまり、

精子提供を受ける側には、「父母」と「子」という

2種類の人間が存在するのですが、

この2種類の人間は、そろいもそろって、

満額回答の利益を確保することになります。

 

 

 

では、この精子提供をめぐる合意の反対当事者、

精子を提供する側の男性は、どうでしょうか。

 

 

 

こちらは、かなり事情が異なってきます。

 

 

精子提供によって得られる対価は、

無報酬あるいは少額の報酬ですが、

提供という行為をおこなったことにより、

自己のプライバシーを相手に公開することになるだけでなく、

養育費や財産分与といったかたちで

自己の大きな財産が毀損することになるのです。

 

 

つまり、総合してみると、

精子提供をおこなった男性は、差し引きで

おおきな損害を被ることになります。

 

 

 

どうでしょうか。

 

 

 

こうしてみてくると、

「出自を知る権利」というものを認めた場合の

精子提供をめぐる合意の本質が見えてくるのでは

ないでしょうか。

 

 

 

それはつまりは、

合意の一方当事者(精子提供を受ける父母、と、その子)には

二者そろって一方的に利益をあたえるかわりに、

合意の反対当事者(精子提供をする男性)には

一方的に損失をかぶせる、

不公平な契約なのです。

 

 

 

もし。

 

 

この契約が成立し、履行されるなら。

 

 

 

そのときは、

精子提供を受ける父母と子にとっては、

バンバンザイの結果になるでしょう。

 

 

 

でも、パンの売買契約のところでお話をしたとおり、

通常、この世の中では、

一方だけを一方的に利する契約には、

損をする反対当事者がはなから契約に参加してこないので、

契約そのものが非常に成立しにくくなってしまうのです。

 

 

 

それが、

精子提供をめぐって、いま、

欧米でも日本でも、実際に起こっていることです。

 

 

つまり、

損をすることが最初からわかっている男性が、

精子提供をしなくなってしまったのです。

 

 

 

角を矯めて牛を殺す、という言葉がありますが、

出自を知る権利、というものをあらたに主張し始めたために、

最初の、精子提供すら実現されなくなってしまうとしたら、

精子提供を受けて妊娠出産を実現しよう、と考えていた

父母にとっては、おおきな誤算なのではないでしょうか。

 

 

 

では、この状況をどう改善したらいいのか。

 

 

 

そのことを考えるには、やはり、

契約というものがどういうときに成立するのか、

その根本にさかのぼって考える必要がありそうです。

 

 

 

一般にこの社会では、

契約自由の原則というのが基本になっていますから、

一方的に損になるような契約を結べ、と、

相手に強制することは、できません。

 

 

もちろん、

大企業とその下請けの会社のように、

力関係に差があって、

今後も継続して取引をしてもらう必要から

下請け側があえて不利な内容の契約を甘受する、

といった事例は、あるかもしれません。

 

 

ですが、

精子提供の合意に関するかぎり、

男性側に、精子を不利な条件で提供しないといけないような

「弱み」が、特段存在しないのです。

 

 

であるなら、

契約を結びたいと思ったら、

お互いに利益があり、

一方だけが損をすることのないような、

公平な契約を目指す必要があります。

 

 

 

その点、米国などでは、

精子提供の段階で、

精子提供者の男性に対してかなり多額の金銭を授与する、

といった合意の方法もとられているらしいです。

 

 

つまり、

将来発生しうる財産分与や養育費といった

男性側の金銭的なリスクを織り込む形で、

契約を実質的に公平なものにし、もって

契約成立の実をとる、

という考えが背景にあるのかもしれません。

 

 

 

考えるべき論点、その解決策には、

いろんなものがあるとは思いますが、

これまで述べてきたように、

一方だけを一方的に利し、他方に一方的に損をかぶせる

ような契約は通常は非常に成立しにくい、

というのは、

人間の基本的な考え方、人間のつくる社会、

が変わらない以上は、容易に変わるものではないと思うので、

そこを無視しないように

みんなで解決策を考えていくといいのではないでしょうか。

 

 

 

以上、天機でした( ´ ▽ ` )ノ